またこの光景を見ないといけない、
私はまたここを走る。
身体は傷で軋み、
深く抉れた皮膚や刺さった矢は、
死に向かうために血が多く流れる。
頼む、その扉を閉めるな!
扉が閉まり辺りが真っ暗になる…。
またこの光景を見ないといけない、
私はまたここを走る。
頼む、その扉を閉めるな!
バタン!
扉が勢いよく閉まる、
扉の向こう側から叫び声が聞こえる、
扉の下から血が流れる。
ドン、ドン!開けろ…
私はいつまでこれを繰り返さないといけないのか?
これは地獄か?私は良い人間ではなかったかもしれない、
だがこれは酷い仕打ちではないか。
何故だ?
またここか?
またこの光景を見ないといけない、
私はまたここを走る。
痛い、嫌だ、いっそ殺してくれ!
いや死んでいるのか?
扉が閉まり、
彼の死ぬ瞬間を見たものはいない、
次第に叫び声は狂っているかのような音になっていった。
「貴様が閉めなければ、私は死ななかったであろう?
誰だ扉を閉める者は誰だ?」
やめてくれ!またここに戻りたくない!
痛い!
左手は動かない、左目は見えない、
右の太ももは抉れ、走れない。
足を引きずり手を伸ばせば届く扉が、
開かない何故だ?
バタン!
私は神の加護を受け、この土地を守り続けた、
それなのにこれは?この仕打ちは?
地鳴りのような深く低い叫び声が、
扉を震わせるほど咆哮する。
何度も、何度も、何度も、何度も何度もなんどもなんどもなんどもかまはたやたやなた、
叩いた扉は軋みだし、金具はズレ、
扉はもう壊れかけている。
暗闇に1つだけ扉がある。
扉は壊れなかった。
それは開いた。
言葉を発している、それは人間の言葉ではないような、
悲しみと怒りと絶望に、歓喜が混じり。
それは金属と金属が擦れたような、
金切り音、笑い声のような。
ーーーーー
「どうした?何で走る?」
男が大声で女に呼びかける、
女は来ないでと声を震わせている。
「どうしたんだよ!?なんの冗談かわからないけど、ふざけるのもいい加減にしろ!」
女にその声は届いていないようだった、
息も絶え絶えになり、走るのもやっとだ。
扉
それを目指している。
そこは閑静な住宅街であろう、
点々と一軒家が等間隔にあり、誰かが騒いでいたら通報されてもおかしくはなさそうだ。
走りっぱなしの女は汗が滴る、
もう絶対に動けないぐらいの運動量だ。
はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ
扉に手をかける、
男がなにか言っている、
「おい!閉めるな!」
勢いよく開けた扉は、慣性でまた閉まる。
木製の扉は重たい1枚板、
閉まった際には、大きな音を出して、人々を不快にさせる。
それは彼も例外ではない。
男の声は、さっきまでの声ではない。
「貴様が閉めなければ、私は死ななかったであろう?
誰だ扉を閉める者は誰だ?」
「嫌だ!痛い!開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ、
貴様が憎い憎い憎い憎い!」
扉が壊れほど叩く、
扉の隙間から血が滲み出る。
床一面、壁にも血が這いずる、
天地などない。
お願い来ないで…
女は言う。
「なたらたやまなかたら?
なんだ?貴様やたはた、やあら、
が、閉めるからではないかのか?」
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