祖父の金庫の前で私は正座をして、
彼から貰った紙を再度確認した。
数字は私の記憶と一致していたが、一箇所だけ左にダイヤルを回すのが違っていた。
私は、震える手を抑えながらダイヤルを握った。
左に34右に18と、
ゆっくりと正確に感触を確かめながら。
ダイヤルを回し終えても、開いたような音はしない。
ダイヤルの上の取っ手を握り下げた、
その時に[ガチャ]と初めて音をあげた。
その中には小さい箪笥のような箱が入っていた。
「覚えてる」
大きな扉には何も入っていなかったが、
下の引き戸を開けたときそこには白い封筒に私の名前が記された手紙があった。
中を確認する。
ーーーー
燈(アカリ)へ。
この手紙は、伝えないといけないことをここに書き留めてるからしっかりと見てほしい。
まずは、燈のお母さんとお父さんについてのことを言っておかないといけない。
今のお父さんは実の父親ではないよ、
本当のお父さんは病気で燈が小さい時に亡くなってしまった。
お父さんは亡くなる前に、
お母さんと離婚をして子供達に負担をかけないよう、思いやりのある行動をとりました。
おじいちゃんはそのことについて反対だったけど、2人で決めたことを尊重しました。
燈は一人っ子として今まで過ごしてきたはずだけど、
本当はお兄さんがいます。
それは"大輔"のことだよ、彼は幼馴染ではなく貴女の兄妹になります。
このことについて今まで黙って、
嘘をついて本当に申し訳なく、おじいちゃんは心が痛みました。
でもちゃんと理由があって、
それは燈のお母さんの為だったんだよ。
お父さんの病気に、心を病んでしまったお母さんは、とても不安定な状態になってしまい、
現実を受け入れきれず、お母さんも危ない状況になっていったんだよ。
だから小さい頃の燈はおじいちゃんのお家で小学生になるまでここで過ごしのを覚えているかい?
でも、大輔はお父さんを助けたいといって、
お父さんの所に行ってしまったんだよ。
だからあまり燈と会えなくなり、
貴女は小さいからお兄さんと認識できなくなっていったし、
大輔も妹としてではなく、幼馴染として、友達として接するようになった。
なんでそんなことをと思うだろうけど、
それは、燈の為でもあったからだよ。
寂しい想いをさせてしまうのを嫌がった大輔が、そうしようと言ってくれた。
それと同時期におじいちゃんも病気になってしまい、
燈に負担をかけないようにそうしました。
手紙に書いたことは本当のことで、
この手紙で現状を知ってしまっていたら、
まだお母さんからこのことについて話を聞いてないことだろうと思います。
お母さんはまだ心が弱い状態なはずだから、
燈がこのことを知ってもお母さんには何も言わず、そして怒らないでほしい。
お母さんがこのことについて話す時は、
燈に任せます。
最後に、この手紙は燈のものだから好きにしなさい。
おじいちゃんより。
ーーーー
私は、声が漏れないよう、
母に気づかれないように手紙を金庫にしまい、
そして金庫にも再度鍵をかけました。
私は今からも変わらず生活をするよう、
心がけました。
忘れられないけど、今は忘れないといけないこと。
母はこのことについて話してくれることがあるだろうか…
でもそれでもいい、
そこには皆んなの愛情以外には何もない、
それを受け入れます。
そして愛します。
サマーナイトブルース、
金庫には一枚のレコードがありました、
おじいちゃんが好きな曲のブルースジャズで私はよくわからなかった。
それを初めて聞いた時は、暑い夏の夜でした。
柔らかい音楽と小さい時に聴いた曲がリンクした時、そばにはみんなが居た気がしました。
心地いい光に包まれて、
寂しい気持ちを紛らわせてます。
サマーナイトブルース END.
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